進藤路夢

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「どうした二宮」
 俺が部長との話を終えて、自分の席に戻ろうとした時、異変を感じた。
 グスン
 というオフィスではあまり聞かない音を聞いたせいだ。不意に向かいの席の二宮を見ると、顔は無表情だが、液体が顔から溢れていた。
「うん? どうした」
 もう一度聞く。二宮のパソコンには
「しずく」という文字が溢れていた。
「先輩、しずくってこんな綺麗な漢字なんですね」
 その文字の羅列の最後には
「雫」
 と、書かれていた。
 こいつは結婚して3年。子供が生まれてもうすぐ一年だ。
「何かあったか?」
「僕、食器拭き担当なんです・・・」
 聞けば、育児ノイローゼ気味の奥さんに、食器の拭き残しのしずくの事で、毎晩怒られているらしい。
「頑張ってるんだな」
「しずくって、こんなに綺麗な漢字なんだ」
 今の俺には何も出来ない。肩を叩き、自分の席に帰ろうとした。
 そこで、ふと二宮のパソコンにしずくが落ちている事に気づき、ティッシュで拭こうとした。
「やめください!! こいつだって、こいつだって、僕の目から溢れた雫なんです! 大事な大事な雫なんです!」
 二宮はすごい剣幕だ。
「わかった、わかった」
 俺は慌てて、自分の席に戻った。
 あいつはやっぱり疲れてる。
 だって、あのしずくは目からじゃなく、鼻からたれたものなのだから・・・

4/21/2023, 8:03:06 PM