『アイドルなんて無理だ』
そう言われ、家を飛び出て早数年
いまや、アリーナでツアーが出来るほどに人気になっていった
そして、いわゆる地方と呼ばれる僕の地元でも初めて公演が組まれた
あの日から、家族には連絡も近況報告も一切して来なかった
まだ小さかった妹は、お兄ちゃんが突然居なくなってどう思っただろうか
そんな事を思い出したりしながら
刻一刻と開演の時間は進んでいく
公演の幕が上がる
《みんなを笑顔に》をモットーに歌って踊っていたとき、ふと目にはいった光景に
『嘘だろ』
思わず、心の中で声がでていた
そこに居たのは紛れもない家族だった
いわゆる、関係者席でも無い、一般席に
メンバーやマネージャーさんに「せっかくだし、関係者席用のチケット送ってあげたら?」と言われたりもしたが、頑なに送らなかったのだ
だから一般でチケットをとったのだろう
応募しても当たるか分からないのに
特に親なんて絶対に来るわけない、そう思っていたから
だからステージの上から見つけた時、一瞬、時が止まったかと思った
外周でのパフォーマンス時には更にハッキリと見えた
妹の手に握られていた団扇には思わず苦笑いが出た
(そこはお兄ちゃんじゃないのかよ……)
どうやら妹の"推し"とやらは自分じゃないらしい
まぁ、楽しんでくれたら、笑顔になってくれれば、それでだけでいい
SHOWはまだまだ始まったばかりだ
最後には僕の方へ振り向かせてやる
いまさら言葉なんかいらないから
ただ、僕のことをみていて
舞台(ステージ)の上で輝く、ぼくを
『言葉はいらない、ただ・・・』2023 ,08,30
8/29/2023, 1:48:16 PM