エグチーセット

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鏡の中に王国があると幼い頃信じていた。
不思議の国のアリス。その中に鏡の国というフレーズがとてつもない印象があったのだ。
同じく童話で誰が一番美しいか鏡に問いただしていたこともあり、鏡の中はよく似た別世界であるとすら捉えていた。
どんなとこだろう。
ここより綺麗なお洋服やアクセサリーがあるかもしれないという期待で毎日鏡を覗いていた。周りの大人はそんな私をおしゃまさんだといって深く気にも止めていない。
ところがある日、祖母のお家に飾ってある大層豪勢な鏡が割れたのだ。
私は火をつけたように泣いた。
その鏡は私の知る限り一番の鏡だったのだ。鏡の国に行けるのはこの鏡しかないとすら信じていた私にとって一大事である。
粉々に割れた硝子の前で泣きじゃくる。大人が危ないからと私を抱き抱えようとお構いなしだった。
そうこうしている間にすっかり片付き壁にはうっすらと日焼けのあとがあるばかり。もう鏡の国には行けないのだと希望を閉ざした。
あれから新しい鏡が来てもまったく見向きもしない。鏡の国は閉ざされ、鏡のなかの私は死んだ。
いま写っているのは別人しか思えない。私によく似た私。
今では脈絡のないお伽話だと言える。それでも当時の私にとっての世界。だからどうしてもここに書き残したくなったの。最後まで読んでくれてありがと。
良い夜を。

11/3/2023, 1:51:05 PM