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この教室も今日で見納めか。3年間通いつめたこの学校とおさらばする日になってしまった。
友達なんてろくに出来ず、だらだらと1人で過ごすことが多かったけど中々いい高校生活だったんじゃないだろうか?

ぼーっと窓際の席から空を眺めていると岩下くんが教室に入ってきた。もう生徒は全員帰ったものだと思っていたから少し驚いたけど特に話す用もない。ただただ気まずい時間が流れるだけだった。

岩下くんは少し不思議な人だった。友達もいるし勉強も中々できる、至って普通の人だ。しかし何故か不思議な雰囲気を持つ人だった。言葉に表すのは難しい。何故か惹き付けられるような人だった。

岩下くんは自分の机から何かゴソゴソと取り出しお、あったと呟いて嬉しそうにしていた。どうやら忘れ物を取りに来たらしい。無意識にぼーっとその様子を眺めていると岩下くんがこちらに近づいてきた。
「いやーもう卒業だよ、早いなー。」
と一言。まさか話しかけられると思わなくてそうだな、と短く返した。それからこれからどうするのかと他愛もないことを話し、少しして岩下くんは教室から出ていった。

たったそれだけだけど僕は今でも時々岩下くんを思い出す。彼が纏っている不思議な雰囲気も顔も声も鮮明に覚えている。

友達と呼ぶのはおこがましいだろうか?絆が出来たというのもおこがましだろうか?でも僕には確かにそこに絆があったと思いたかった。

3/6/2024, 2:37:54 PM