NoName

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 ステップなんて知らない。
 手の取り方も取られ方も。
 でも、流れてくる音楽が余りに優雅で、つい、直ぐ側にいた貴方に手を延べてしまった。
「踊りませんか?」
 大きく見開かれた瞳に、多分貴方も踊り方なんて知らないだろうことを知る。
「二人して、くるくる回っているだけでもそれらしく見えますよ」
 そうして掛けた誘いに、貴方は照れたように笑うと、じゃあ一曲だけ、と述べていた私の手を取った。
 二人揃ってくるくる回る。花のように。
 存外、楽しかった。

10/4/2023, 4:34:40 PM