じん

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### 好き嫌い

直子はいつも、自分が一番嫌いなものを真っ先に思い浮かべる癖があった。たとえば、ニンジンが大嫌いだった。小学校の給食で出るたびに、口に入れずに牛乳で無理やり流し込んでいたのを今でも覚えている。

大学生になってからも、その嫌いなものリストはあまり変わらなかった。嫌いな授業、嫌いな教授、嫌いなサークル活動。嫌いなものを数えるのは簡単だったが、好きなものを挙げるのはいつも難しかった。

そんな彼女がある日、友人の誘いでアートギャラリーに足を運ぶことになった。直子は美術には興味がなく、むしろ退屈だと思っていた。しかし、友人がどうしてもと言うので仕方なくついて行ったのだ。

ギャラリーの中は静かで、壁に掛けられた絵画たちは鮮やかな色彩を放っていた。直子は最初の数分で既に退屈を感じ、時計をちらちらと見ていた。だが、ふと目に止まった一枚の絵が彼女の心を捉えた。

その絵は、一見シンプルな風景画だった。広がる青空に、一本の大きな木。その下で楽しそうに笑う子供たち。色使いが柔らかく、まるで絵の中に吸い込まれるような感覚だった。直子は立ち止まり、その絵をじっと見つめた。

「好きだな、この絵。」

自分の口から自然と出た言葉に、直子は少し驚いた。こんなにも心が動かされるものがあるなんて。彼女はその日を境に、自分の「好き」をもっと見つけようと決意した。

それからの直子は、少しずつ自分の好きなものを探し始めた。好きな音楽、好きな映画、好きな場所。彼女は気付いたのだ。好きなものを見つけることで、嫌いなものが少しずつ色褪せていくことを。

直子は新しい世界に足を踏み入れ、自分自身も変わっていった。好き嫌いというテーマを超えて、自分の中に新たな色彩を見出したのだ。

6/12/2024, 11:39:02 PM