M氏:創作:短編小説

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朝7時
どの季節も変わらず太陽が空を青白く染めてくれる時間
慈善事業を中心に営むこの会社の地下で人が囚われてると誰が思うのだろうか
トーストとスープとサラダにコーヒー
質素とも豪華とも言えない典型的な朝食をトレーに乗せて地下に進む

刑務所とあげるには清潔で
ホテルと呼ぶには閉鎖的な廊下を進む
自由に動かせる程の信頼が無いにも関わらず利用価値のある人間を閉じ込めるに相応しい場所
死んでしまったらそれまでだと言う冷徹な思考を持つ人間が多い中で10年近く生き残ってる彼の元へ

少し見ただけではこの扉に鍵がかかっている事さえ分からない
そんな白い扉をノックし、鍵を開ける
とある研究グループを解体した後の逃げ遅れを上手く利用してる
表向きはそういう形だが実際は自由を奪って飼い殺し状態
精神的に苦しもうが悲しもうがお構い無しに決まったスケジュールをこなしてもらう
普通の人間なら精神を病んでいくだろう
白いベッドで寝息をたてている女性のように

『ぁす…』

だが部屋に置いてあるパソコンを弄っていた彼は違う
朝食が来る前には起床し
外に助けを求められないように設定されたパソコンで作業を始める
朝食を持ってきた人間には彼なりの挨拶もかける

研究グループの中でも情報整理を中心とした立ち回りをしていた彼は利用価値がある
とは言え組織に対する忠誠心の薄さと友人間に向ける情の深さが彼に対する扱いを不安視させる
研究グループが解体された後は処分対象の1人を逃がしたと聞く
ならコレくらいの飼い殺しが一番なのだ

朝食をテーブルに乗せても同室している女性を起こす様子の無い彼にため息を付きながら白いベッドに近寄る

『寝かせてやってください、あんま寝れてないんす』

こちらが起こそうとしても彼はその一言で終えた
同室の彼女は精神を病んでいる
研究グループのリーダーと呼べる女性に対する忠義心が彼女を壊したとの事
そんなリーダーは組織もグループも裏切って処理されたのに

『さーせん』

去ろうとした己に声をかける彼に視線を向けた
此処に飯を届ける人は毎日“今日の天気”を問われるのだ
だから自分も素直に天気を教えてやる

『晴れか…あす』

雨の日は聞いておしまいだが雪の日や晴れの日は少しばかり優しげに口角を上げる
マスクのせいでまともに見えないが…雰囲気が柔らかくなって笑ってるように見えるのだ
まるで子を慈しむように天気を復唱してから朝食を摂る
その姿は未だ子離れが出来ていない親のようにも見えた


題名:哀愁をそそる
作者:M氏
出演:👨🏻‍💻


【あとがき】
閉鎖空間の中で正常を保つには人との関わりと外の情報が必要とも言えます
健康的な生活をしていても情報もコミュニケーションも何も無い状態だと精神を病むらしいです
何かしら行動するのが一番だと聞きます
会いたい人に出会えた時に正常な気持ちで喜べるように
彼は人を気遣い人と関わり壊れない程度に息をする
誰かのお父さんって訳じゃないですけど良い父親してますよね

11/4/2023, 8:30:35 PM