相合傘
すこし大きめの傘を買った
特に意味はないけれど
朝の匂いが少しといつもと違ったから
太陽の下その傘を持って歩いた
無駄に大きいその傘は
移動するたび邪魔になった
手ぶらの人々が通り過ぎる度
何だか無性に恥ずかしくなった
目的地に着いてやっとそれを置いた
独りで立つそれが寂しそうで
何とも言えない気持ちになった
帰り道それは意味を持った
太陽は隠れ蛙が顔を出していた
大勢の人が店の屋根でスマホを触っていた
そんな中、一人悠々と帰路につく自分に
ただただ優越感を感じていた
景色が流れていく中で
ふと虚しさが襲ってきた
そういえばこの大きめの傘は
傘だという意味しかなしていない
大きめである理由はまだないのだ。
そんな事を考えると
より虚しくなった
そろそろ家に着くという頃
紫色と茶色のランドセルが目に入った。
ランドセルの色に時代を感じた事は置いといて
二人の小学生は困っている様で
上を見上げて困り顔をしていた
…
最近は何でも不審者になりうる
急に傘を差し出す不審者になりたくなかったので
名刺と一緒にその傘を渡した
少し驚いた顔の後
笑顔でありがとうと言ってくれた
ただそれだけだが、
この世界も捨てたものじゃないなと思った。
雨に濡れながら
今度は虚しさのない優越感に浸った
雨は冷たかったが
何だかとても暖かい気持ちだった
特に意味のなかったあの傘も
ちゃんと意味を持ったのだ
傘という意味でも大きめという意味でも
可愛らしい相合傘として
意味をなすのだ
6/19/2022, 10:51:25 AM