とみとめ

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今日、わたしはフラれた。徹頭徹尾、フラれた。
追い縋れば気持ちが変わるかな、とか、自分の性格を見つめ直せばあるいは、とかそういった淡い期待や望みを持つことすら許さず、彼はわたしをフッたのだった。

むしゃくしゃして、わたしはフラれたその足でスーパーに寄り、筑前煮の材料を買い込んだ。彼はごぼう入りの筑前煮が大好きで、わたしはレンコン派。わたしは彼の前ではかわいい女を演じていたから、いつも作るときはごぼう入りの筑前煮にしてきたけれど、今日でそれもさようならだ。

筑前煮の煩わしさは、下ごしらえと煮込み時間の長さだとわたしは思っている。その煩わしさを耐えてこそ、あの味のしみた最高の筑前煮ができるのだけれど、そう言えばあの男はそんなわたしの影なる努力も知らずに、ぱくぱく食べていたっけ。ああ、でも。ごはんを決して残すことはなく、豪快とすら思える食べっぷりが、わたしはいつも愛おしかったのだ。

出来立ての筑前煮を小鉢に盛る。湯気が立つ。わたしの好きなレンコン入りの筑前煮。文句なしの出来映えだ。ああ、美味しい。わたしって最高じゃん。こんなに美味しい筑前煮を作れるやつ、絶対ほかにいやしないのに。

馬鹿だな。本当に馬鹿。
わたしはいつしか、ごぼう入りの筑前煮の虜になっていたようだ。


テーマ「行かないで」

10/25/2023, 9:28:33 AM