メンヘラ予備軍

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「嫌だ、お願い、捨てないで!」
お母さんの手には私が幼い頃から大切にしていたクマのぬいぐるみが掴まれていた。
あのぬいぐるみは、私が悲しい時にいつもそばに居てくれていて、一緒にお出かけや旅行にも行った。その度に私はあの子を優しく抱きしめた。
なのに、そんなたくさんの思い出が詰まったあの子を捨てようとしている。何を血迷ったのか、
「こんな不気味なぬいぐるみが何になるのよ!」
何を言っているの?その子は不気味なんかじゃない。
「いつもいつもひとりでに喋って!気味が悪いのよ!」
違う。その子は優しいんだ。お母さんなんかよりも遥かに優しいんだ!
私は泣きながらあの子の最後を見守った。
「ばいばい。絶対帰ってくるからね」
君は最後にそういったような気がした。

あれから数年後。大好きな人と結婚し、子供を授かった。その子が少し喋れるようになった時のこと、ある日突然、
「𓏸𓏸、帰ってきちゃよ。たりゃいま。」
私はドキッとした。けれど、私はすぐに答えた。
「おかえり。」

11/18/2023, 2:28:40 PM