狐火

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「指令だ…行くぞ」
「了解」

俺たちは殺し屋と呼ばれる職に就いている
ほぼ毎晩依頼が入り、依頼のあった人を殺すのが
俺たちの仕事だ

「今日は誰だ?」
「…幼い子供さ」

…胸糞悪ぃ。しかも依頼は親からときた
依頼の通りに動くしかない俺たちだが
殺しが好きなやつはいない
心が荒んで辞めていく奴もいる

「…はぁ」
「…やりたくねぇな」

今日は特に気が乗らない
これまでも子供を殺すよう依頼されることはあった
みんな殺したい訳では無い…人の心はあるのだから
だが依頼が来てしまえばやるしかない
疑うことも知らない幼い子供を殺すのは些か胸が痛む

「…あそこだ」
「子供は…あの部屋か?」

依頼の場所に着いた俺たちはターゲットを探す
親は出かけているのだろうか
ぽつりと明かりのついた部屋がひとつ
近づいてみて驚くと同時に、俺たちは顔を歪めた
子供はベランダにいた
……ボロボロの服を着て、やせ細った状態で…

「…こんな依頼出してくるような親だ
まともな奴なわけねぇよな」
「…あぁ…そうだな」

長くペアを組んできた相棒だが
こんな顔は見た事がない
俺たちは殺す前にターゲットと対話する
無意味なことかもしれないが欠かしたことは無かった

「…よう、チビ」
「…お兄ちゃんたち、だぁれ?」
「…狐と、狼だ」
「どうぶつさんなの?どうしてここにきたの?」
「お前を見つけたからさ」
「ぼくを…?へんなお兄ちゃん」

隅で膝を抱えて小さくなっていた子供は
俺たちが姿を現すとびっくりしたように立ち上がった
まだ5歳ほどだろうか
話すのが久しぶりなのか少し声が掠れている

「へんだけど、うれしいなぁ。
ぼく、ずっとだれかとおはなししたかったの」
「…親は、話してくれねぇのか」
「…ママはね…ぼくが、いいこじゃなかったから、
ぼくのこと、きらいなの…
ぼくのせいで、ママはいつもおこってるの」
「…そうか」

普通は親に虐待されている子供は
目にあまり光がない
なのにコイツは自分のせいだと疑っていないせいか
澄んだ綺麗な瞳をもっていた
俺は、コイツに引き金を引くことが出来るのだろうか

「だけどね、きょうはすこしだけにこにこしてた!
いつもはなにもいってくれないけど、きょうはバイバイってあいさつしてくれたの!」

…あぁ、きっとその「バイバイ」は
お前の言う挨拶なんかじゃない
永遠にサヨナラをする
二度と会う事の無いお前への、別れの言葉だ

「…どうしたの?お兄ちゃん
どこかいたいの、?」
「…痛くはねぇよ」
「…じゃあ、どうしてないてるの?」
「……」

お前が、あまりにも澄んだ瞳をしてるから
やるせない
俺たちはやるしかないのに
相棒も顔を逸らして泣いていた
きっともう俺たちではコイツを殺せない

「…なぁ、チビ」
「俺たちと一緒に来るか」
「…お兄ちゃんたちと…?」
「あぁ」
「………」

もう、辞めよう
真っ当に生きたい
コイツを生かしてやりたい
コイツが俺たちを選んでくれればの話だが

「…………く……」
「…いく………いきたい」
「いっしょに、つれてって……!」
「…!」

気づけばコイツも泣いていた
やはり限界だったのだろう
俺たちにしがみついて必死に声を殺しながら
ぼろぼろ涙を流していた

「…行くぞ」
「しっかり捕まれよ」
「…ゔん…!」

首に回された手は、暖かかった

2人の男と1人の小さな子供は
そのまま夜の闇に消えていった

7/30/2023, 11:16:47 AM