🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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041【命が燃え尽きるまで】2022.09.15

もはや、これまでのようだった。如何に祈りを尽くしても、火の山の憤怒はおさまらなかった。
「わたくしは、命が燃え尽きるまで、この祈祷所で、御山にむかって祈り続けます。されば、オサよ。みなを御山の怒りのとどかぬ静かな場所へ……」
しかし、オサは。首をたてにふらなかった。口もとに、ただ、やさしい笑みをうかべていた。
「御山がここまで怒ったことはない、とジイ様がいうておった。これは、祈りでどうこうできるような段階をとうからこえている、ということであろう……天の御鉾を、お出しなさい」
オサの物言いは穏やかであったが、私は怯んだ。顔面が蒼白になっていくのが、自分でもはっきり感じられた。
「ワシが、御山神をお諫め申し上げる」
オサは、そう告げた。
「おやめなさい! どうか、それだけは……」
オサの諫止。それは、巫女が代々口伝えに伝えてきていて、私も知ってはいたが、よもや、私の代にそれが実行されることになろうとは。おもわず私は、オサの袖にすがりついた。
「あなたはみなにとってなくてはならぬ存在。御山神に命を捧げ、怒りをなだめるのはこの私の役目。だから……」
「ただいまからは……このワシが、この場所で、祈りまする」
オサが、立ち上がった。
「場所を代わりたまえ。ぐずぐずするな。みなの命がかかっている。御鉾を」
それでも私は、肯うことはできなかった。無言で、抵抗した。
「ワシとて、不本意ではある……しかし、これも時のめぐり合わせ。やむを得ぬ」
オサは首からしるしの勾玉をはずし、私の首にかけた。
「ただいまより、なにもかも。おんみに、おまかせする。疾く」
オサの勾玉を巫女に託し、巫女の鉾をオサに委ねる。この行為こそが、なだめてもなだめても怒りを爆発させる神に対し、諫める、という強い手立てを取るぞとの、人間の長からの宣告であった。
かくなるうえは。さからうことはできなかった。あまりのことに涙も出なかった。私は天の御鉾をオサにさしだし、祈祷所を下り、口伝にしたがいみなを東雲山に導いた。

火の山が鎮まるまで、さらに十日かかった。わかりきってはいたことだが、オサは帰ってはこなかった。それだけではない。あろうことか、ムラも。あとかたもなかった。
私たちは新天地を求めて南に旅立つことにした。ジイ様を仮のオサとし、しるしの勾玉はいましばらく巫女の私があずかることとなった。
勾玉を掲げ、朝に夕に、オサの御霊に祈りを捧げるのが、当面の私の役割となった。そして。オサの最後の勇姿を末代まで語り伝えることも。

9/14/2022, 7:36:51 PM