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私には憧れの人が居る。常時クラスの隅に居る私とは程遠い、皆中心にいて誰にでも優しくて人気者の――
まるで少女漫画の王子様の様な人。

私の様な者が恋をするのも失礼な位釣り合っていない人だ。

♢

「あんた、ロクに運動出来ないんだから体操着捨てといてあげたよ〜!」
「やだも〜可哀想じゃん〜!」
「親切でやってるんだよ〜?感謝してね?」

あぁ、またこれか。鬱陶しいから、と誰かが私を虐める。
呼び出されたから何事かと思い教室で待っていたらこれだ。
馬鹿馬鹿しい。踵を返して家に帰ろうとした時頭が揺れた。

「ちょ、手出したらまずいっしょ…」
「ごっめ〜ん!手が滑っちゃった!」
「っいた、」

殴られたのか。手を出すなんて…
本当に馬鹿馬鹿しい。早く帰りたいのに身体が思うように動かない。

―――「お前ら、何してんだよ!」
「え?━━━?こんな時間に、どうして?」
いつもの優しい彼からは想像もつかない程、地を這うような低く冷たい声色だった。

「忘れ物思い出して、。━━━さん。大丈夫?」
「ぅん、。」
「私たち遊んでただけなの〜!そうでしょう?」

反論しようとした、その時ふわりと体が浮いた。


理解する間もなく彼は私を保健室まで連れていってくれた。

「大丈夫?少し休んだ方が良いよ」
「ごめんね。━━━━くん。もう帰っていいよ」
「ずっとあんなことされてたの…?」
そういい彼は手を握ってくれた。
あぁいつもの彼だ。こんなに誰かに優しさを向けられたことはあっただろうか。
何か温かいものが頬を伝った。

「うわっごめん!急に手なんか握って気持ち悪いよな、
でも、なんかこうしたくなって…」
手を離そうとした彼の手を掴んだ。
「全然嫌じゃないよ。ありがとう」

彼をを握る手を強くすると握っていた手が応えて強くなった。

「ふふっ痛いよ」
「━━━━さんからだよ。
…そういえば笑ったとこ、初めて見た、可愛い」

優しくてみんなの輪の中心に居る彼と少し距離が縮まった。










2025/03/20 手を繋いで

3/20/2025, 1:20:09 PM