NoName

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「ねぇねぇ、優くん」
「ん、なに?」
「もし私が死んでも…」

君は

その次の日に

死んだ。


彼女が死んでもうすぐ10年が経つ
彼女の部屋には遺書があった。
彼女はいつ死ぬかわからないからと、成人した頃から毎年遺書を書き換えていた。
僕と彼女はまだ結婚していなかったけれど
遺書は彼女の母が見せてくれた。
何度も何度も読み返して
涙の跡だらけになったそれを
僕はまだ持っていた
『早く孫の顔が見たいわ』
親にそう言われて
僕は「忘れなくちゃいけない」ということにやっと気が付いた
もう30代だし
結婚して
子供を産んで
あれ
僕は
女?

なんでなんだ?
なんで彼女と付き合ったことを隠さないといけないんだ?
なんで
なんで
「なんで僕は女に産まれたんだ?」
生暖かい雫が僕の頬をつたった

そのあと僕は泣いて
泣いて
気が済むまで泣いて
思った
もう、逃げたくない
逃げない

「もし私が死んでも、私のこと忘れないでね」






【勿忘草の花言葉】
私を忘れないで

2/2/2023, 5:30:17 PM