狼星

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テーマ:幸せとは #53

「『幸せ』って何?」
友達にそう聞かれた。私は下を向くしかなかった。なんて答えたらいいのか分からなかったからだ。
「僕、早く死にたいんだよね」
友達は少し経って言った。私はその子のことを見た。彼は目尻を下げて笑った。
「生きていても『幸せ』って思えないんだよね」
彼は私をからかっているのかもしれない。私をからかうことが好きだから。私はまた視線を地面へ落とす。
でも、彼が本当に死を選んでしまったら…。
私はどうなるんだろう。友達を失ったら私は、立ち直れるんだろうか。
「生きていなければ『幸せ』は手に入るの? 死んでいれば『幸せ』は手に入るの?」
私は地面を見つめたままいった。
「わからない。でも生きているのはつらいし、僕が吸っている酸素がもったいないよ」
本気で言っているのだろうか。本気で言っているとしたら……。言っていなくても…。冗談にしては笑えない。
「私は…」
私は思うがままに言葉を並べた。
「私は、あなたがいなくなったら寂しいよ。酸素がもったいないなんて言わないでよ。大切な友達がいなくなったら寂しいに決まってる。悲しいに決まっている。
自分で命はたってほしくないし…辛いことがあったならこんな私だけど相談に乗る。
だから…『幸せ』じゃなくても死んじゃ駄目だよ。私だって『幸せ』はわからない。でも、あなたと一緒にいるときが好き。あなたと一緒にいたい。それは『幸せ』とは違うのかな…?
言い切った私の視界はいつの間にか歪んでいた。鼻の奥がツンとしてきた。
泣くのかな…私。人に生きていてほしいと思う私は、我儘なのかな…? 私は泣き虫で弱虫なのかな。
「そっか」
彼は短くそういった。彼の表情は見えなかった。私が泣きそうな顔を見てほしくなかったから、彼を見なかった。彼の思考が少しでも変わればいい。
死という選択が少しでも薄れたのなら……。

私には『幸せ』はわからない。
実態のないものだからだと思う。形があって目に見えれば『幸せ』だと分かることができるかもしれない。
ただ、いま一つ私が言えることは
『幸せ』とは今、存在できていること何じゃないかって思う。毎日仕事や勉強、家事たくさん嫌なことがある日々を送っているけど、それは生きていなければできないことだと思う。死んだことがないからわからないけど。
でも、存在しているからできることだってある。色んな人と話したり。子供と遊んだり。愛する人と一緒にいたり。友達・仲間ができたり。家族と日常を送ることができたり。好きなことをしたり……。
もちろん楽しいことばかりじゃない。でも辛いことを乗り越えられたら『幸せ』に一歩進めたんじゃないかって思う。
だから今、苦しい思いをしている彼のような人に言いたい。
『生きて、幸せを掴んで』って。

1/4/2023, 2:13:12 PM