塵芥 椎歌

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煩わしいなぁ。

何で私なの。

男脳と女脳の違いの誤算。

修正は不可欠です。


内心、あーもう!と思いながら
不愉快な笑みを浮かべ
ベッドから素足を出した。

ニルヴァーナには本日も至れず終いです。


「我の快楽、愉悦、とは」


猫のZIPPOを弾く
その音は子猫の鳴き声の様な。

つい先程…
ねぇ?貴方?と、
横目で寝顔確認安堵です。

どちらともない好意から合意の行為を
貴方の好きな好位で果たしつつ
空気は湿って濁って

たった今
私が吐き出した煙の様な…
そう、窒息しそうな空気。

その中にまだまだ居たかったなぁと
舌打ち一つ
灰がフローリングに落下。

鳥急ぎ、朝。
丁度良い所にあった。と、羽織物を手に取り
おもむろに手と頭を出す。

何年か前に
恋愛ごっこしてた相手に一言。

「頂戴?」と強請ったものだ。

黒の柔らかいセーター。


(大丈夫、メンズだから下は履かなくても見えないよ)


(似合うから、これとこれもあげるよ)


―そんな沢山要らないのに貰ってしまったのは何故?―


「懐かし」


匂いを嗅いでも
もう私の柔軟剤の香りしかし無いのが
少しだけ、ほんの少しだけ悔やまれた。

出会った初日にペアリングを買ったっけ。
当然目下行方不明逃走中です。
時効はいつだか忘れたシルバー。


―ペアリングって捨てる為に用意された小道具だ―


ミネラルウォーターを一気に流し込む。


そう、悲劇か何かの脚本家が―

私達に予め捨てさせる為に―


「ペアリング」と言う小道具を
用意させるように
どうにか仕向け
輪っかに薬指を通させたら
シメシメなぞと、安堵して
その光る小道具の出番が来るまで
息を潜めて、脚本家は待ってるんだ。



―まさに仕組まれた事実だ―



あぁ、そんな事を考えたいんじゃなくて!
捨てた指輪の数なんて数えようとしないでよ!


首を横に髪を振り乱し脳に鞭打ち。
生まれたその日から
用意されている
思考の馬車馬は良く言う事をきくんだもの。


(気性は荒いけどね、はは、そこがとても―)


「はいはい」と小さく一言零す。


太ももは少し肉付きが良くなった
ふくらはぎは変わりなし…と、
決して短くは無い私の足は
こんなにも冷えたフローリングの上に
当たり前に着地出来るのになぁ。

足は冷たくて固まるのに
私の頭は浮遊感で溶けそうだ。



―夢を見させる側は、夢なんて一生見れない―


そうに決まってる。
そうじゃなきゃ、辻褄も帳尻も
私と言う、身体も合わないもの。

黒のニーハイを片足から通す。

さながら
不機嫌なブリジット・バルドーを装った。


サービスは日常に付随してくるのです。
女である限り。


呑気に果てて寝ている誰かの事なんて
もうとうに忘れた振りで。


「もしもし?」と小さく声を発した瞬間―

さながら気取ってみた不機嫌な顔が
更に不気味な笑顔に痙攣するのが分かる。


―いつもの事だ、前からだ、慣れたもんだ―



ねぇ、バルドー。
私だって夢くらいみたいもんだわ。

オフェリアは良い夢の中に違いない。


さすれば…
犯人はゴダールか、シェイクスピアに違いない。


「私の為にもっと脚本を。喜劇でも悲劇でも!」

そう言って声高らかに笑おうか。
なんて。

断頭台上の演説から我に返る。


ああ、何分後には
「こう言われるんだろうな」と予言、否、予知する。
天井を仰いで、その時を待つ。


―どうせ、しっかり台本通りに演じるんだから―


はて?
今寝てる男と私の間に
「ペアリング」と言う小道具が無いのなら…
何を捨てる事になるのかな。



知りたくもない。
知らなくていい。


見えない存じない
ぼんやりしていて
的も無い信仰心にただただ縋るだけ。






題 夢をみていたい
著 塵芥椎名

1/13/2024, 10:33:21 PM