暖炉の火が赤々と燃え上がり、煙突を焦がして私の小さな体を温めた。
いつもは半分しか使ってない長いダイニングテーブルは、端から端まで空になった食器とワインやシャンパンの瓶が並べられ、それを母と伯母が少しずつキッチンへと運んでいく。三人掛けの皮の弛んだソファーでは、赤ら顔の伯父が溶けるように眠り、父はテレビの前で友人達と政治家の悪口を大声で言い合っている。
あと四十分もしないうちに今年も終わる。十歳の私がこんな遅くまで起きていられるのも、一年の一番最後の日だけだ。ご馳走を食べ終え、大人の会合に参加出来ずにいた私は、両手を泡だらけにした母にホットミルクを作ってもらい、誰にもおやすみと挨拶もしないまま自分の部屋へと引っ込んだ。
沸かしたてのホットミルクを冷まそうとベッドに上がって、窓辺のキャビネットの上に置いた。カーテンを開け、賑やかな夜の街を眺める。世界中どこもかしこもお祭り気分のようで、喧しい音楽と共に男も女も歓声を上げ、街全体が電飾で飾り付けられたみたいに点滅している。
その中で、私は隣の家の壁にぼんやりと浮かぶ小さな灯りを見つけ、窓に顔を近づけた。よく見ようとすると、灯りは萎むように消えてしまったがすぐに新しい灯りがついた。
私は灯りの正体に心当たりがあった。何日か前に商店街で見かけた、裸足でマッチを売っていた同い年くらいの女の子の姿が思い浮かんだからだ。彼女は父のコートの裾を掴み、黄ばんだエプロンのポケットから小さなマッチを取り出して「いりませんか」と消えそうな声で言った。私は彼女を酷く気の毒に思い、父の方をちらりと見上げたが、父はまるで少女もマッチも見えていないといった様子で私の腕を引っ張っていった。
隣の家の玄関灯は既に消灯されていたので、ぼやけた灯りだけでは果たしてその正体が本当にマッチ売りの女の子なのか確かめようはなかったが、私は不思議とそれが彼女だと確信していた。丸い小さな灯りは、二分もすれば消えた。消えるとすぐに新しい火が灯され、隣家の壁のほんの一部を照らした。
十回ほどそれが繰り返され、年が明ける前には二度と灯りがつくことはなかった。リビングから両親と客人が何やらめでたいめでたいと騒ぎ始めたのが聞こえ、私はすっかり冷めたミルクを少しだけ飲んで、毛布の中に潜り込んだ。
翌朝、窓越しに彼女の死体を見た。
真っ白な雪に埋もれ、女の子は壁にもたれるようにして死んでいた。
燃え尽きた黒いマッチが彼女の周りを取り囲みながら、横たわっている。
私はそれをベッドの上から眺め、やがて母の声に呼ばれてリビングへと下りていった。
#窓越しに見えるのは
7/2/2023, 6:50:50 AM