クレハ

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好きな人がいる。
彼はみんなに人気者で、いつも誰かと一緒にいる。
私はそのなかの一人というわけで。
だけどそれだけで終わるつもりなんてなくて、彼の唯一になりたい。

どうすればいいかな。

真偽不明の恋愛必勝法が載っている雑誌をめくって、そのなかの一つが目に入った。

『魅力的な香水でさりげなく!』

中身を熟読して、これだって思ったの。
同じ香水をつけ続けて、標的のそばに居続ける。
あの人が街を歩いていて、似た匂いがしたら私を思い出すくらい。
彼に意識してもらうことができたら、もう私の勝ち。

さっそく買った甘い匂いの香水を、さりげなくさりげなく、注意しながらうなじにつける。
香水と私の匂いがまじって、世界にたった一つの香りができあがる、らしい。店員さんの受け売りだ。

彼はいろんな人と仲が良くて、どんな小さなことでも気付いてくれる。
どんな反応してくれるかな。
楽しみでスキップしそうな気持ちで道を歩いて、大学の敷地内に入る。

「あっ」

さっそく見つけた彼に、運命ってものを感じる。
けれど、彼の隣。いつもいつもそこを陣取っている後輩のあの子。ナマイキな後輩だって言うあの子の先輩兼彼の友達が逆隣にいて、話しかけるタイミングを見失った。

結局、講義の合間に少し話しただけ。
でもさりげなくって書いてあったし、初日はこれくらいかな。
そう思いなおして、明日に備える。

少しずつ少しずつ、私を刻みつけるの♡

****

「不愉快」
「なんでえ」
「ジョーネンの臭いって感じ」
「ジョー……?あぁ情念。おまえよくそんな言葉知ってたなあ」
「あなたは変なのに好かれやすいんだから気をつけてくださいよぉ」
「おまえも含めてな」
「オレは相思相愛だからいーの。フロ行こ。臭い落とさないと抱き心地サイアク」
「へーい」


お題「香水」

8/31/2023, 12:14:31 AM