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「遠い日の記憶」

この島には鷹がやってくるんだ、とあなたは言った。明るい天気の午後、美しい霧雨が降る中を鷹が来るんだ、と。鷹ははるか遠い山々からの天の使いだ。雨と、死者の魂を連れてくる。それに乗って帰ってくるからね。そう言ったあなたを、僕は今も待っている。明るい午後のたびに、庭に出て空を眺めながら。
鷹が島にやってくるのを見たことは、まだ一度もない。見たこともない鷹と、久しぶりのあなたとの再会とを待つ暮らしは、僕にとっては悪くないものだった。開けられていないプレゼントの箱を抱えたまま日々を過ごすのは楽しいことだ。たとえその箱を開けることが生涯なかったとしたって。

7/18/2022, 8:13:28 AM