金木犀

Open App

 溢れる気持ち

「——。」

 簡単な言葉だったはずだ。
 いつか君を忘れてしまう。そう知っていたら、あの時私は何か伝えられていただろうか。
 あの頃の私は、愚かな臆病者だった。日常が壊れてしまうのが怖かった。だから気持ちに蓋をした。そうすれば、これ以上辛い思いをする事もないと信じていたから。今思えば、どんな選択をしても、きっと満足する結果は得られなかっただろう。必ず後悔しただろう。それでも、自分に正直でいるべきだった。そうすれば、今でも忘れずにいられたはずだ。
 あの頃の私は、何を伝えたかったのだろう。もう思い出せない。
 今でも私が、愚かな臆病者だから。

2/5/2024, 10:56:37 AM