## 好きな本
佐藤さんは、小さな町の図書館の司書でした。彼は50代半ばの男性で、優しい眼差しと穏やかな笑顔が特徴的でした。佐藤さんの薄くなった髪は白髪混じりで、いつもきちんとした姿勢で本棚の間を歩き回っていました。彼にとって本は宝物であり、訪れる人々にその魅力を伝えることが彼の生きがいでした。
ある日、佐藤さんは図書館の片隅で小さな男の子が泣いているのを見つけました。男の子は8歳くらいで、ぼさぼさの黒い髪と大きな茶色の瞳をしていました。彼の名は健太でした。健太は新しい学校に転校してきたばかりで、友達ができずに寂しい思いをしていました。
佐藤さんは静かに健太に近づき、優しく話しかけました。「こんにちは、どうしたのかな?」
健太は涙を拭きながら答えました。「友達ができなくて、いつも一人なんです。」
佐藤さんは微笑み、本棚から自分の大好きな本を取り出しました。それは『星の王子さま』でした。「この本を読んでみないかい?僕も子供の頃、よく読んでもらったんだ。とても素敵な話なんだよ。」
健太は目を輝かせながら本を受け取りました。表紙には小さな王子様が砂漠に立っている絵が描かれていました。「ありがとう、おじさん。でも、僕、一人で読めるかな?」
佐藤さんはにこりと笑いました。「大丈夫、一緒に読んでいこう。少しずつでいいんだよ。」
その日から、健太は毎日図書館に通い、『星の王子さま』を佐藤さんと一緒に少しずつ読んでいきました。物語の中で王子様がいろんな星を旅する様子を聞くたびに、健太の顔には笑顔が戻っていきました。それから健太は他の本にも興味を持ち、来る日も来る日も図書館に通いました。
その日も健太は図書館に来ていました。『星の王子さま』を読み終えた彼は、新しい本を探して本棚を歩き回っていました。すると、同じくらいの年齢の女の子が近くの本棚で本を探しているのが目に入りました。彼女の名は美咲で、茶色い髪のポニーテールと明るい笑顔が印象的でした。
健太は一瞬迷いましたが、勇気を出して話しかけました。「こんにちは。何を探しているの?」
美咲は振り向き、少し驚いた様子でしたが、すぐににっこりと笑いました。「こんにちは。私は魔法の本が好きなんだけど、どれが面白いのか分からなくて。」
健太は少し緊張しながらも、自分が好きな本のことを思い出しました。「『ハリー・ポッター』シリーズはどう?すごく面白いし、魔法の話だよ。」
美咲の目が輝きました。「本当?それ、聞いたことある!でもまだ読んだことないんだ。」
健太は本棚から『ハリー・ポッターと賢者の石』を取り出し、美咲に手渡しました。「これ、すごくいいよ。最初の巻だから、ここから始めるといいよ。」
美咲は本を受け取り、感謝の意を込めて微笑みました。「ありがとう!一緒に読む?」
健太は一瞬驚きましたが、すぐに喜びがこみ上げてきました。「もちろん!僕ももう一度読みたいな。」
二人は図書館の一角に座り、一緒に本を開きました。ページをめくりながら、健太と美咲は物語の世界に引き込まれていきました。時折、好きなキャラクターや場面について語り合いながら、笑顔を交わしました。
その日から、健太と美咲は毎日のように図書館で一緒に本を読むようになりました。他の子供たちも彼らに加わり、自然と新しい友達の輪が広がっていきました。健太は、自分が勇気を出して話しかけたことで、こんなにも素敵な友達ができるとは思いもよらなかったのです。
数年後、健太は大人になり、自分自身も司書になりました。彼は子供たちに自分が愛する本の世界を紹介することが、最高の喜びだと感じていました。健太はいつも心の中で、あの日佐藤さんが見せてくれた優しさと本の魅力を忘れませんでした。
6/16/2024, 5:17:26 AM