ご飯茶碗が新しくなっていた。
大学の講義が終わり、帰宅して、親の用意してくれた夕食を食べる。いつも通りのなかにひとつだけの違和感。そう、ご飯茶碗が昨日までと違うのだ。
予告も無しにニューフェイスがしれっと登場している。なんだ、誰だお前は。
母に訊くと一言、「前のは欠けてたから捨てた」とのこと。まあ、そうでしょうね。そりゃ仕方ない。ところで今日の味噌汁しょっぱくない?
別に今まで使っていたお茶碗に大した思い入れはなかった。前のお茶碗が割れたからとその日のうちに近所のホームセンターに行って数分で選び買ってきたものだ。そのはずなのにどうも落ち着かない。反面、生姜焼きはいつ食べても美味しい。
お茶碗が視界に入るたび、持ち上げるたびに湧き上がる違和感は、先代お茶碗を十数年使ってきたことが原因なのだろう。手に馴染んだ形や重さは一日二日で更新できるものではな……いやちょっと待ってこの豆腐すごい繋がってるんだけど。逆に器用じゃん。
たがが茶碗。されど茶碗。
意識もしていなかったが長年寄り添ってくれたお茶碗様にせめてありがとうの一言ぐらい言って別れたいところだ。
というか一応私のものなのだからひとこと言ってくれてもよかったんじゃないか、母よ。代替わりを知っているのといないのとでは心持ちがまるで違うぞ、母よ。実家暮らしで親に世話してもらってる以上あまりわがままは言っちゃいけないが、母よ。
明朝のゴミ集荷は割れ物・危険物……だったはずだ。
手遅れになる前に食べ終わったらすぐにありがとうを言いにいかなければ。
今日もご飯はおいしい。
お題:突然の別れ
5/20/2024, 10:44:34 AM