「はぁー」
吐いた息は白い水蒸気となり、風に流され空へと昇り消える。
雲一つない宙の下、ベランダから街の灯りを眺めながらふとあの頃を思い返す。
「あの子達、今頃何してるんだろうね。」
と、後ろから高校の頃の横居先輩が口にする。
「そうですね、」
と、彼方は寂しそうに返す。
「中入らないと風邪引くよ。」
そう言われ
「あー、もう少しだけ観てようかなって、」
と、彼方はまた寂しそうな表情を浮べる。
「それっ!」
急に横居が彼方の後ろから抱き着く。
「ッ?!せっ、先輩やめてくださいっ、」
と、頬を赤く染め上げた彼方は抵抗する。
「あれれ〜彼方くんわたしはもう先輩じゃないんだよ〜?」
と、そんな彼方を揶揄う樣に吐息混じりに耳元で囁く。
横居は、恥じらう彼方の表情を見て満面の笑みを浮かべていた。
「ねぇ、彼方。私、中学の頃好きな人が居たんだ。」
と、横居は先程までの笑顔とは対象的に物憂げな表情を浮べながら話し始めた。
「その人はね、クラスの人気者っていう感じじゃなかったけど凄く真面目で優しくて、いつもヘナヘナしてるのにカッコ良くて憧れの人だった。」
と話し
「何か良いですね。そーゆーの。」
と、彼方は少し微笑みながら聞いていた。
「彼は東京の高校へ行く事が決まってたから卒業式の日に告白しようと思った。付き合えなくても伝えたかったんだ。でも、彼は卒業式には来なかった、、」
と、話し続ける横居の瞳を照らしそこから零れ落ちる涙はとても綺麗で、その横顔を眺めるだけしか出来なかった僕は劣等感を抱き仄暗い静寂の中にいた。
「ねぇ彼方。明日も、晴れると良いね。」
吐いた息が白くなる冬の宙には、北斗七星が泛びその時交わした接吻の味は、舌が溶けるほど甘く哀しかった。
4/13/2023, 3:22:23 PM