ふいじ

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夜景


初めて夜景を見た時の心情を、
多分一生わすれない





街で1番高いデパートの中は、きっと宝箱のようにキラキラしている。

あたし達はいつも手を繋いで、向かいの小さくて汚いビルの間からこっそりそれを見ていた。ショーウィンドウに飾られたドレス、靴、ショール。帽子にぬいぐるみ、おもちゃ。どれも豪華で、贅沢で、美しかった。あたし達はそこに入るどころかは近づくことさえできなくて、そのデパートから出てくる綺麗な人間を、いつもふたりで隠れて見てた。あのデパートは天にも届くほど高く輝くのだもの、きっと上から下まで心躍る宝物でいっぱいなはず。そしてそんな宝箱の上から見た夜は、きっと夢のような景色だろう。

いつか、あの街1番大きなデパートの屋上から、ふたりで夜景を見下ろそう。

夜景の輝きのひとつにすらなれない小さくて汚い2人は、いつも手を繋いでそんな約束を確かめあっていた。
幼かったのだ。

いつしか、大人になってしまった2人。
あの頃眩しかった全ては、もはやくすんで石ころになった。
なんにも信じることが無くなって、つかれて、きたない。


だったらせめて、この街を煌めく星になろう。
2人は最初で最後、夢の場所に立った。手を繋いで、1歩。また1歩。そうして見えた、この街1番からの夜。

ね、あたし達は大人になった。
それでも2人、それだけはあの頃のまま。

だからこのまま、終わりにしようか。

9/18/2024, 1:38:05 PM