鐘の音
「除夜の鐘といえばさ」
縁側で棒アイスを齧りながら呟く。日陰になり風が通るここは涼むにはちょうどいい。
「随分と季節外れだな」
「涼しくない?」
「お化けの方がいいな」
あちらも棒アイスを舐めつつ言う。それでも話を続ける。
「子供の頃、近所のお寺に毎年行ってたんだけど、その年の大人たちは腰が重くてさ」
鐘の音が聞こえる中、そわそわしつつ何度も早く行こうと言ったのに、なかなか出かけようとしなかった。
「やっと辿り着いたと思ったら最後の鐘鳴っちゃって」
「108つ目が終わっちゃったのか」
「そうなのよーそれで」
不貞腐れる子どもにマズいと思ったのか、いつもは行かない年始の初詣に連れて行ってもらったのだった。
「初詣はなんか買ってもらったのか?」
「そこまでは覚えてないわー」
「親不孝者めー」
「そこまで言う?あ、溶ける」
棒アイスを食べ尽くす。あちらも食べ切って一言。
「もっと涼しい話が欲しい」
「鐘に貼り付けば涼しいのでは?」
「鉄臭くなりそう」
しょうもない話をしながら過ごす。
除夜の鐘などまだまだ遠い夏の日だった。
8/5/2024, 11:32:29 AM