月園キサ

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#柚原くんの一目惚れ (BL)

Side:Shu Yuzuhara



"…付き合ってみる?俺たち"


市ノ瀬がそんなことを言ってきたとき、これって夢オチじゃないよな?と思った。
本人はマジだと言っていたけれど、本当はこいつのいつもの気まぐれ発言だったりしないよな?とも思った。


「柚原ぁ、な〜に固まってんの」

「いや、あの、な?とととと突然その、つつつつつつ付き合ってみるとかいいいい言われたらさ???」

「どもりすぎどもりすぎ。ほい、深呼吸〜」

「できるかぁ!!!!てか、お前は何でフツーなんだよ!!?」

「フツー、って?」

「俺がこんなテンパってんのに、お前は俺に告ってもいつも通りじゃんかよ!」

「…え。マジ?そう見える?」


腹立つ…マジで腹立つ…!
俺だけ舞い上がってガチ照れしているこの状況がめちゃくちゃ恥ずかしいし、本当にこいつの「付き合ってみる?」は本気なやつなのか?
市ノ瀬の口元は黒いマスクの下に隠されているが、もしかしてこんな俺を見て笑っていたりする…のか?

俺に見えているのは、いつもと変わらない鋭い眼差しだけ。

話を続ける前に、俺は熱くなった両頬を平手でペチッと叩いて深呼吸をした。


「…お前は俺でいいのかよ?」

「ん。てか、柚原 "が" いい」

「ホントに "で" いい、じゃなく?俺マジでお前と付き合っちゃうぞ??」

「っはは、柚原俺のこと疑いすぎ〜」


市ノ瀬がちょっと笑った。
滅多に笑わない市ノ瀬が、俺の前で!笑った!

散々目つきが悪いと言われがちな市ノ瀬が笑うと、目元がくしゃっとして急に可愛くなるんだな。

…が。浮かれすぎて忘れていたことをここで俺は思い出した。


「と、ところでさぁ…市ノ瀬?」

「ん?」

「付き合うってさ…どういうことすりゃいいんだ…??」

「あ、そこから?別に特別なこと無理にすることなくない?」

「でもそれじゃあ今までの俺らじゃんか?やっぱキスとか?」

「…」


無知なまま勢いで言ってしまったが、一瞬市ノ瀬の表情が固まった気がした。

…マズい。これはもしや、モテ男の地雷を踏んだか?

制服についた埃を払うフリをして視線をそらしたとき、市ノ瀬から意外な反応が返ってきた。


「柚原は俺と…キスできんの?マジなほうの」

「へ??」


市ノ瀬の声がわずかに震えているのが気になって思わず視線を戻すと、市ノ瀬はいつもつけている黒マスクを外していた。
若干だけど、顔が赤くなっている気がする。


…え?市ノ瀬、照れてる…?
そんな "どうなの?" みたいな顔、初めて見たんだが。
いつものワルっぽい市ノ瀬はどこへ行った?

付き合おうかと提案してきたかと思いきや可愛い一面を出してこられたせいで、俺の呼吸がおかしくなりそうだ。


「そ、そりゃあな!?市ノ瀬がしていいって言うならな!?」

「ふーん…?じゃあしてみっか〜」

「まさかのあっさりOK!!?」


人気の多くなってきた廊下から空き教室の隅っこに引きずり込まれたかと思いきや、チュッ、と唇に短いキスをされた。

市ノ瀬が意外とノリ気だったものだから、俺のペースがまた乱されてしまった。

そんな何食わぬ顔で「してみっか〜」とか言うなよ、塩顔イケメンめ。
さっきまでの可愛いお前はどこへ行ったんだよ。
…でも俺は、そんな掴めない男っぷりが市ノ瀬らしくて好きなんだ。


「ちょっと〜、柚原ビビりすぎ〜」

「うっさいっ!!お前が突然キスするからだろっ!!」

「声デカい声デカい、廊下まで聞こえるって」

「うおっ、やべっ!」


明らかに市ノ瀬にからかわれているから怒りたいのに、こいつの鋭い視線がふわりとやわらかくなっているのを見ていたら許してしまう。我ながらチョロいな。

これが惚れた弱みってやつか。と、結局この後に2回目の不器用なキスをしたのはまた別の話だ。




【お題:鋭い眼差し】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・柚原 愁 (ゆずはら しゅう) (受けみたいな)攻め 高1
・市ノ瀬 瑠貴 (いちのせ るき) (攻めみたいな)受け 高1

10/15/2024, 1:46:25 PM