チド

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日の出
 
海岸線が右手に見えていた。
神山春紀は、左手でハンドルを握り、右手の指にタバコを挟んでいる。窓から風が入り、軽くウェーブした髪を撫でてゆく。
助手席には、半井美幸が気怠い表情で、暗く冷んやりとした街並みを眺めていた。
『もう何年経つのかしら』
乾いたトーンで呟く。
『まだ、彼が海に潜ってる気がするわ』
花岡大和は、学生の頃から海に潜るのが好きだった。
魚を獲る。大きな魚を銛で刺し、焼いて食べる。
骨を口から吐き、ニンマリ歯を見せる顔は、誇らしげだった。
『俺は海を喰らうのが好きなのさ』
カラカラ笑いながら言うのである。
『あいつは、海になったよ』 
神山は煙を、吐き出しながら低く言った。
潤んだ眼で前方を睨む。
その日、花岡は、眼を爛爛とさせて海へ入って行った。
それきり、戻っては来なかった。
水平線が、赤らんできた。
大和は陽を獲りに行ったのだと思った。




言葉遊び

杉泣き指す指 鋭くヒカリテ 淡き影行く 履きつつ観る夢 幻夢はまぐわい 石楠花飾りて 酒など煽りて 

1/3/2025, 10:37:05 AM