いつから始まったのか、わからなくなってしまったくらい長く長い、重苦しい旅の途中で、疲れ果て立ち止まった旅人は、ふと、つぶやいた。
「これは私だけの時間を歩く道。」
すると、丸っぽくて、全てが視界に入り切らないくらい大きな何かがやってきて、旅人に、ニヤリ顔でこう言った。
「お疲れ様でした」
すると、今まで見えていた細い砂利道が、すうっと消えた。
「私の道はもうここまでということか」
旅人は少し残念そうな、安心したような、何とも居心地が悪い気持ちになった。
しかし、後悔はなかった。
後悔が浮かばないことに驚いた。
「あなたの歩いた長さはこれくらいです。どうお感じになるかはわかりませんが、ほら、ごらんなさい。私の掌にスッポリ入ってしまうでしょう?」
大きな丸いだろうものは、ペラペラとした掌の上にのせた道を見せた。
「私には、あなたの掌が大きいのか、小さいのかが、わからない。どうしてだろう? だから、歩いた道の大きさも、長さも、わからない。わからない以外、何も感じない」
しかし、だんだんと旅人は、何だか惜しい気持ちになってきた。
「今までそれなりに歩いてきたのに、わからないとしか感じないなんて。これでいいのだろうか。何だかもったいない」
丸いのはニヤリと微笑んだ。
「おや、あなたはそうお感じになるのですね。では、続きを歩きますか?」
「まだ途中だったのか」
「あなたが、そうお考えになるのならそうでしょう」
旅人は考えた。
またあの道を歩くなんて、いや、どんな道だっただろうか?
旅人は驚いた。
どんな道だったのか、まるで覚えていないのだ。
刹那、丸いのは消えた。
「残念です、私をお忘れになるなんて。
私はあなた、あなたは私。私は私、あなたはあなた」
しん、と急に周りが白く静かになった。
そこには何もなかった。
ただ、摘まれて少ししんなりとした小さなタンポポだけが、そうっと落ちていた。
4/28/2023, 1:32:52 PM