睦月

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『突然の別れ』

結局、私は
誰にも
何にも
なれなかったんです

ティースプーン一杯分の狂気を
追い求める彼に
与えられるものを
何ひとつ
持ち合わせていなかった

精神に異常をきたすくらい
壊れてしまえばいい

幽かな望みに縋って
そこにしがみついて
高みを目指して

私が居ると
あの人は
タダの人になってしまう
それが怖くて

だけど

私は

私が消えてからの
彼のことばかりに
想いを馳せて

彼を失った私が
どうなるか
考えもつかないくらい
彼に夢中だったんです

心が空になるくらい

彼の才能に
恋い焦がれていました

離れてみて
ようやく気づくなんて
間抜けな話です

その後 彼は
みごとなまでに
才能を開花させ
地位も名誉も手に入れました

「たったひとつ、最愛の人だけが手元に残らなかった」

何かの取材で、彼がそんなことを言っていたと聞きました

もちろん
戻る気はありません

彼には
これからもずっと
私の幻影と共に
混沌と狂気の中で
生き続けて欲しいのです

私は私の人生すべてを
彼の才能にかけて来ました

その代償は
あまりに大きかった

自らの夢さえ
捨て去ることも
厭わないほどに

だからこそ
簡単に
終わらせて欲しくはないのです

彼は
私の夢そのもの

突然の別れが

彼の
新たな才能の扉を
開いたのなら

もっと広い世界へ
羽ばたいて欲しくなるじゃないですか

5/19/2023, 11:28:52 AM