ああ、綺麗だ。
己の眼に映される蝶に嫌気が差した。
自分の意と反して、憎らしい情が沸いてくる。無理もない。あれは蝶でなく霊だ。
人を攫い、その輝かしい翅で妖艶に羽ばたきながら舞って、毒で襲う蝶。
もともとは鬼"だった"。鬼の霊、とでも言うべきか。
鬼の持つ角も、体躯も、武器も、神とやらのもとへ返還され、その代償に美しい翅と飛ぶ能力を手に入れた。
彼等は「鬼霊」と呼ばれた。鬼の霊だ。
ちなみに、俺は鬼だ。
人間が想像するものと同じ。角で威嚇し、その体躯で狩りを行い、己の武器で人を襲う。
はあ。400年ぶりに見たな。
あの人間は、これから襲われるのだろうな。
あんな蝶に見惚れて女房も子供も置いて駆け出すとは。馬鹿なやつだ。
そんな馬鹿なやつは「あなたさまは我々の村を鬼から守ってくださった英雄だ」「感謝しても仕切れない」「ありがとう」などと祈るように手を合わせながらひとり言をしている。
何も知らない人間だ。
村を守ったのは鬼だぞ。
「ああ、鬼霊だ。」
舞うように寂しく飛ぶ蝶に、嫌気が差した。
#2024.5.9.「忘れられない、いつまでも。」
書いていたら全て消えてしまい、書き直していたため文がおかしいところがあるかも。
あの蝶の話、創作です。綺麗で思いついた。
蝶の話、2作ほどあると思われるので見てってくださいね。
鬼に寿命があるとして、ここでは1000年から5000年ほどとしています。ざっくりすぎだろ。
5/9/2024, 11:42:09 AM