あんこ

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・タイトル未定(気が向いた時に、お題に沿って連続物のお話を書こうと思っています。)

1.
いつの日だろうか。真っ暗な空の下、母と2人歩いた。咄嗟に母に手を引かれて家を飛び出した私は、立ち止まった時に母を見上げると、歯を強く食い縛ってた。
「奈美ちゃん、ごめんね、お父さんがこんなんで。お母さん、もうお父さんとは離婚するからね。」
幼かった私には、「りこん」が何かわからなかった。母は、ポケットに入っていたお金で缶のジュースを買い、プシュッと、缶を開けて、「はい」と私に渡してくれた。そのぶどうの炭酸の匂いと、その時の澄んだ空気と、それから、ぼんやりと綺麗だと思ったあの日の半月を、私は今も覚えている。
「半分お月様、綺麗ねー。」
母は私にそう言った。


私は高校三年生になった。あの日がきっかけになったのか、離婚こそはしていないものの、お父さんとは別居しながら生活している。
「奈美、お母さん、今日帰り遅いからね。夜ご飯のハンバーグ、ラップかかってるやつ冷蔵庫にあるからね。」
「はーい、行ってらっしゃい!」
「あ、あとそれと。」
母は私に缶のぶどうジュースを差し出した。
「好きでしょ?これ」
「⋯⋯好き!ありがとうお母さん」
私は母といってらっしゃいのハグをして、母を玄関まで送り出した。
バタン、とドアが閉まり、家は私1人になった。1人で考える事が好きな人間なので、割と1人は苦ではない。今日もまた、ゴロンと床に寝転がってスマホを弄る。ぶどうの缶ジュースを飲みながら⋯
「このジュース⋯お父さんに教えてもらったジュースだな」
窓を開けると今日は半月だった。澄んだ5月の空気が心地よかった。
半月は、私にとって、永遠の愛だと思われるものの終止符となった日の景色だ。なんて、ちょっと思慮深すぎるかもしれないけれど。月があの日半分だったのは、母の心が欠けて満たされていなかったのを表しているようだった。

見えてる半分はお母さん。そこにお父さんの半分が現れて、お母さんは満たされた。でも、お母さんの心からは、お父さんの分の半分が消えた。満たされなくなった。丸い愛となった形でさえ、いつか欠けてしまうかもしれないと、その時に思った。

人生に変わらないものなんてない、永遠なんてない。じゃあなんで、人は永遠の愛を誓うの?私達もいつか、変わってしまうの⋯?
「好きだよ」
そう書かれた恋人とのトークルームを、私はじっと見つめた。
「半分お月様、全然綺麗じゃない」
ぽつりと私は呟いた。













「月に願いを」

5/27/2024, 1:31:22 AM