今日も昼過ぎに目を覚ます。堕落しきった日々からずっと抜け出せない。ベッドの下に転がったスマホに手を伸ばし、むくんだ瞼をこじ開ける。やはり通知は何もない。小さな期待を抱いては挫ける。そんな朝をもう何回繰り返しているだろう。
鬱陶しいくらい頻繁に来ていたメッセージは次第に減り、今は一日に一通すら来なくなった。最後に会って話したのは3ヶ月前。気まぐれにかかってくる電話越しの声だけは相変わらず優しくて冷たい現実を見えなくさせた。
彼はこのまま静かに私の日常から消えていくんだろう。まだ始まってもいないのに。好きか嫌いかもよく分からないくらい、お互いのこと何も知らないのに。こんなに呆気なく終わるくらいならドロドロした感情をぶつけ合うほうがマシだった。大人ぶらずに大声で罵り合えばよかった。結局何も残らない。友達にすらなれず他人のままで終わっていく。またひとりぼっちだ。
いつものように自己憐憫に浸っていたらインターホンが鳴った。咄嗟に息を潜める。ボサボサの髪にヨレヨレのTシャツ。パンパンにむくんだ顔。酷い有り様だ。とても人様の前には出られない。
もう一度布団に潜り込もうとするとスマホから着信音が鳴り響く。画面には彼の名前。こんな時に限って。慌てて着信を切るとすぐにメッセージ。
「出てよ」「今電話できない」「家の前にいる」
家……?まさか。ベッドから転がり落ちて慌てて玄関へと走る。ゆっくりと開けたドアの隙間から少し日に焼けた彼の姿が見えた。この人はどうしていつも不意打ちなんだろう。
突然の彼の訪問。一番見られたくない姿を一番特別な人に見せる。
「おはよう」
そう言ってふっと笑う彼の声はミルクティーのように甘く温かい。ずるい。また何もかも忘れて許してしまう。
「上がって」
わざと不機嫌な顔をして私は彼の手を引いた。
8/28/2024, 9:52:36 PM