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私は六本木のタワービル内にオフィスを構える会社のビジネスマンだ。妻と子供の3人で別のタワマン
に住んでいる。自分で言うのも何だが、一昔前なら、ヤングエグゼクティブなどと評されるような、世間から見ればエリート街道を順調に歩んでいるように思われている存在だ。

実際はその「順調」を保つため、毎日が戦闘状態だ。手段を選ばずライバルを蹴落とし、結果を出さなければ二度と這い上がれない。

そんな私の心の安寧を保っているのは、自宅書斎の棚の奥に隠してあるうさぎのぬいぐるみだ。ライナスズブランケットが私にとってのぬいぐるみというわけだ。
この色褪せたぬいぐるみは、私の罵りの言葉やつらい気持ち、もちろん喜びや悲しみもすべて受け止めてくれている。だからこそ家族に当たることもなく、ライバルの前でも心乱されることなくいられる。この子がいなかったら私は心に嵐を抱いたまま生きていかなければならなかっただろう。
妻にもこの事は言っていない。

一度うさぎの向きがいつもと少し違っていたような気がして、もしやぬいぐるみの存在が妻にバレたかと思ったが(きっと汚いぬいぐるみを捨てろと言われるだろう)、妻は何も言ってこなかったから、私の気のせいかもしれない。
私だけの秘密である。



お題「心の健康」

8/14/2024, 12:01:30 AM