奈緒

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『逆さま』





娘が死んだ。


学校の遠足で交通事故に遭ったとの事。


電話がかかって来た時は突然のことすぎて言葉が出なかった。


《ゆあちゃんのお母様のお電話で宜しいでしょうか?》


《はい》


《先程、ゆあちゃんが事故に遭いまして》


今思えば、この教師の対応はどこか冷たかった。


《この病院に来ていただけますか》


分かりました、と伝え電話を切る。


病院に着き娘の所へ。


「ゆあ!!」


私が駆け込むと、ゆあは起きていた。


「まま!」


声だけ聞くと、元気そうに聞こえるだろう。


見た目は…。いいえ、言わない方がいいかもね。


無言で娘を抱きしめると、娘は口を開く。


「ママ聞いて?ゆあ、ペアの子助けたんだよ」


どういうことか分からずにいると、続けて口を開いた。


「ペア活動の一環で遠足に行ったの」


「2列で歩くんだけど、歩いてたら、そのペアの子の方に車がきて」


「ほら、よくアニメであるじゃん、!」


「あのさ、あのー、人助けると死ぬみたいな!」


「ほんとにまさにそれだったの!」


「…まま、?」


元気に話すから、涙が止まらなかった。


「ゆあは偉いよ。」


そう言って娘の頭を撫でる。


娘は、「えー?そおー?」とか言って照れてる。


このまま生きて欲しいと願うのはワガママなのだろうか


医者によると、今日がヤマらしい。


持って明日。


父親は他県に転勤で来れなかった。


連絡すると、急いで向かう、と言っていたのだが、


とても大事な案件で断れないらしい。


泣いていると、娘は言う。


「ママ、大丈夫だよ」


「ゆあはママのこと大好きだよ!」


「死んじゃうのは怖いけど、でも、」


「ママのこと死んでも忘れないし!」


「そもそも死なない!ゆあ強いから!」


耐えられなかった。涙がもっと溢れる。


「ゆあぁ、ッ 死んじゃ嫌だよ、ッ」


我ながら情けないと思う。


娘に泣きつく親なんてどこにいるだろうか。


娘が一緒に寝たいと言うので、今日は病院に泊まった。


いつもと変わらない寝顔をみて、


このまま日常に戻れないかとずっと考えていた。


眠れなかった。


翌朝、目が覚めると、ベッドの台に手紙があった。





「ママへ」


「ママ、事故にあってごめんなさい。」


「優亜ね、実は、優亜がしぬことわかつてたんだ」


「でも、ママに心配かけたくなくて、言わなかったの」


「でもお医者さんは言っちゃった」


「優亜ね、ママの子どもに生まれて幸せだったよ、」


「だって、ご飯はおいしいし、お洋服もかわいいし、」


「何よりママがいちばんかわいい!さすが優亜のママ!」


「ママがおきるころには、もういないと思う」


「おそう式!は友だちのみゆちゃんも呼んでね」


「じつはね、優亜、クラスのたっくんのことがすきなの」


「たっくん、悲しんでくれるのかなあ〜」


「最初はいたかったけど、だんだん感覚が無くなってきて」


「もういたくないの!」


「ママに手紙が書きたいって思ったらいたくなくなつた!」


「でもね、もうね、手が疲れちゃったあw」


「最後にペアののぞちゃんに」


「キミのせいで死んだわけじゃないよ」


「わたしが助けたかったから助けたの!」


「だから、せめてわたしのことわすれないでいてくれるとうれしいな」


「のぞちゃんかわいくてほんとにすき!」


「ペアになってくれてありがとね!」


「って伝えてくれるとうれしいなママ」


「ほんとにママの子どもに生まれてよかった」


「ありがとう、ばいばい、」


「優亜」






優亜という名前は、優しい子になって欲しいという想いからつけた。


本当に。娘は優しい子に育ってくれたと思う。


覚えたての漢字を使って。


手紙を書いて。


文字に起こすとイマイチ分からないが、


誤字があって。


不揃いの字で。


もう涙が止まることは無かった。


ふと、娘の方を見ると、


少し微笑んでいるように感じた。


普通に眠っているようにも感じ、


これはドッキリなのでは、?


とも思った


娘の葬式は、娘の言う通りにした。


龍くん、美優ちゃんその他友達を呼んで。


来れなかった子はいたけど、みんな娘の葬式に来てくれた。


たった1人の娘を亡くして。


親より先に子が死ぬなんて。


ありえないと思ってた。


娘は向こうで元気にやっているだろうか。


私の母や父と仲良くできているだろうか。


早すぎる、と私が怒られてしまうかも。


遺影の娘は死んでることを忘れるくらいよく笑っていた。








【逆さまの意味】

ものの道理に反すること。 また、順序が逆になること。 特に、親が先立った子を弔うこと。 さかさごと。

12/6/2022, 11:41:32 PM