暗がりの中で
私は37歳独身。
中小企業で事務職に就く普通のOLだ。付き合っている人はいても、いつも長続きしない。
結婚なんてとっくの前に諦めてる。
そんなある日突然、ポストに手紙が届くようになった。送り主の名は書いていない。不審に思い、警察に届けようかと思ったけど中身を見て思い止まった。
あの人の筆跡によく似た文字だったから。10年前に突然いなくなってしまった彼。
私が唯一、心から愛したあの人。
恋文と受け取れるような時もあれば、どこかの風景をただ描写していたり、不思議な言葉を並べただけの走り書きに近いものもある。
書かれた文字は歪んでいたり、かすれていて読みにくい箇所が多い。
本当は誰が書いたのかわからないそれを何度も何度も読み返した。全て暗記するほどに。
読むたびにあの人と過ごした日々が甦ってくる。そして、彼に会いたくて胸がギュッと締め付けられるのだ。
毎日手紙が届くようになって半年程過ぎた日のこと。
ある晩、近くの路地裏の暗がりの中にうずくまる人影を見つけた。
「おかえり」
「たこ焼き買ってきてくれた?」
男は黙って俯いている。
クシャクシャになった紙切れを手渡される。手紙と同じ筆跡のその文字は短い詩が書かれてある。
「見せて、傷口。」
大丈夫
私があなたを死なせやしない。
end
10/28/2024, 11:54:21 AM