エリンギ

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【静かな夜明け】

目を開けると、窓の外はまだ薄暗かった。
パイプ椅子に座ったまま寝てしまったらしい。体のあちこちが痛む。
半分程閉められたカーテンを開けると、乾いた音と共に微かな光が差し込んだ。無機質な部屋が照らされ、白いベットに横たわる人物がぼんやりと映し出された。
その目は、硬く閉じられている。
もう何ヶ月、兄の目を見ていないだろう。茶色がかった瞳は、涼し気な一重に良く映えていた。
「おはよう、お兄ちゃん」
呼びかけは応えられることもなく、重たい空気に溶けていく。兄の声が聞けないことに、今更ながら寂しさを覚える。
「あ」
ふと外を見ると、丁度太陽が昇ってくるところだった。
濃い藍色を切り裂くように、ゆっくりと光が溢れ出す。空は徐々に朝を取り戻していた。
「綺麗」
思わず呟いた…のは、僕では無かった。
「え?」
声がした方を振り返ると、兄の細い目に光が映っていた。
「嘘、え、お兄ちゃん、起きた?」
状況が飲み込めず慌てる僕に、兄は優しい笑みを浮かべて言った。
「おはよう」
その少し掠れた声は、間違いなく大好きな兄のもので。
僕らにも、静かな夜明けが訪れたようだった。

fin

2/7/2025, 8:00:03 AM