ドアスコープから見える光景に思わずフリーズした。
玄関前に大男が立っている。もちろん知らない人だ。
脚に力が入らなくて、その場にしゃがみこんだ。
どうしよう、外出れないじゃん。このままだと遅刻しちゃう。その前にこの人誰?会ったことないよね?というかなんで家の前にいるの?用があるならピンポンするよね?ひょっとして不審者?
…再び外を見ると、大男はまだそこにいた。
視界の端で大男の右手が何度か上下に動く。
あー、これはインターホンを押すかどうか
迷ってるっぽいな?
ともかく、そこからどいてもらわないと困る。
意を決してそーっとドアを開けてみた。
大男は何も言わず、じっと見下ろしてくる。怖い。
「あ、あの…うちになにか、ご用で…?」
おそるおそる話しかけてみた。やばい、声が震える。
すると大男はようやくボソボソと喋りだした。
「どうも…隣に越してきた、山田です…。」
そう言って大男改め山田さんは、
左手に持っていたビニール袋をつきだしてきた。
反射的に「あ、ども…。」と受け取ってしまう。
そんな私を見て、役目は果たしたと言わんばかりに
踵を返し、隣の202号室へ消えていく山田さん。
隣人というのは本当なんだな、と思いながら
私も部屋へ戻った。
不審者じゃなかったけど、変な人だったな…。
落ち着いて、ふと時計を見る。はい、遅刻確定。
仕方ない、1コマ目の授業は諦めよう。
あの隣人のことはどうも好きになれそうにない。
まぁいいや、挨拶には来てくれたんだし、
無愛想なだけで本当はいい人なのかもしれない。
初対面で相手のことを判断するのは良くないよね。
そう思い直し、あらためて渡された袋の中身を見た。
「…みかん、好きじゃないのにな…。」
隣人とうまくやっていくには、
まだまだ道のりが長そうだ。
#好きじゃないのに
3/25/2023, 2:10:58 PM