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「待ってて」と言わない優しさもあるらしい。

 1万kmも離れた相手を好きになってしまった。彼も私のことが好きだと言う。奇跡みたいなことだ。立場も年齢もまったく違う。普通だったら出会うこともなかった人。
 彼は帰ってくるけれど、今は遠く離れた異国の地に。

「好きです」

 そう言った彼は、「付き合ってください」とは言わなかった。自分には言う資格もないのだとこぼす。こんなに離れた場所にいるのに、自分がそんなことを言う資格なんて、と。
 そうは言っても私だって彼が好きなのだ。距離が離れていることもわかっている。彼が私に構っている場合ではないことも。それでも好きになってしまった。一緒にいたいと思ってしまった。

「帰るまで、待ってて」

 その一言で私は待ち続けることができるのに、優しい彼は私を縛ることを嫌う。誠実な彼は責任を果たせないことを嫌う。欲しい言葉をくれる人ではないのかもしれない。都合のいいことを言うことができない、不器用な人。そんなところが嫌いで、でもそんな彼が好きだ。

 だから私は勝手に待っているよ。最初からそのつもり。ずっと待っていたよと言える日まで、あなただけを想う。

2/14/2022, 5:19:30 AM