「恋愛しない方がいいよ」
残酷なほどに淡々と告げられた言葉の意味が分からなかった。どこにでもある恋愛相談。笑うと目が細くなる彼女の可愛らしい表情が不気味で、背筋も凍りそうだ。
つい数分前まで一緒に笑っていた人の言うセリフにしては、いささか重い。冗談だとしても、私の心にダメージを負わせるのには十分なほどの威力を持っていた。
「というか、一生出来ないよ」
なぜ、彼女にそんなことが言えるのだろう。まるで、私の全てを知っているかのような口ぶり。断定的に宣言されても、決めるのは私のはずだ。
けれど、彼女の言葉を覆してまで反論できる気力も想いもなくて、当然のように受け入れていた。
「だって、今までだってそうだったでしょう」から始まる否定の矢が、彼女から飛ばされる。
さまざまな言葉を乗せて、まだ古傷が残る身体をザクザクと傷つけた。その傷口に触れると、手が真っ赤に染まる。
ザクザク。ザクザク。もう、どこが痛いのか分からない。
次第に、辺りは静かになって、嵐は過ぎていったかと息を吐く。顔を上げた先には、今日一番の笑顔で彼女が微笑んでいた。
あ、っと思う間もなく、無防備に立ち尽くした私の心臓を目掛けて、彼女がナイフを突き刺した。
「あなたは誰にも愛されないよ」
視界がぐにゃりとねじ曲がっって、可愛い彼女の顔が見えなくなった。ぐちゃぐちゃに薄れていく意識の果てに見えたのは、私の顔をした彼女だった。
「ああ、やっぱりね」
最後の力を振り絞って、彼女を見上げた。
表情を失ったもう一人の私が、満足げに歯をのぞかせていた。
「変わろうとするなんて許さない。ねぇ、あなたは永遠に私と一緒だよ。この孤独の沼でね」
#永遠に
11/1/2023, 2:05:00 PM