Nanase

Open App

雀の鳴き声と朝日の眩さに脳が起きろと要求してくる。しかしながらこの冬場で布団の温もりも捨てがたい。乱雑に置かれたスマホの画面を見ると、布団に潜っているせいで暗い視界が一部だけパッと明るくなった。まだ7時。今日は休みだから、まだ眠れる。
温もりに身を任せようと思った時、すぐ隣にあった重みがなくなったような気がして慌てて飛び起きる。
見ると、彼がシャツを見に纏い、何事も無かったかのように普通のサラリーマンになっていた。
首元では昨日付けた鬱血痕が存在を主張している。
体に溜まっていた温もりが冷えていく気がした。
まだ、もう少し、待って。
彼のシャツを掴むと皺が出来た。怪訝そうな顔をした男が「何」と聞いてくる。冷ややかな目。お前はもう必要ないという目。思わずゾッとして手を離した。

玄関戸が開けられ、力強く閉められる音がする。寒いからか見送りに行く気も起きない。
特別な情を彼が必要としていない事は分かっていた。分かっていたから私も彼を選んだ。じゃあなんだ、愛着を持ってしまった私のせいなのか。いや、そうか。
まだ終わらないでほしいと思う。せめてこの冬が終わるまでは続いてくれ。少しでも熱がないと私はきっと崩れてしまうから。

微かにシーツに残る彼の体温、匂い、痕跡。顔を埋めて、目を瞑る。
冬はまだ終わらないらしい。

#終わらせないで

11/28/2022, 12:00:56 PM