綾瀬 紫

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“時間よ止まれ”


夜の街を歩いている
遠くで犬が吠えている
街灯が照らすアスファルトの上に
影が伸びては縮んでゆく

風は静かに頬を撫で
誰かの話し声がかすかに響く
微かに揺れる信号の光
交差点には誰もいない

耳を澄ませば
時計の針が進む音がする
微細な振動を伝えながら
世界は止まることなく回り続ける

けれど今は願う
この一瞬が永遠になることを
鼓動の合間に挟まる静寂のように
揺らめく光の間に忍び込む影のように

君が笑ったその瞬間が
風に舞う花びらのように
空に溶けた淡い茜のように
消えてしまうのが怖くて

だから願う
この指先が触れたまま
君の声が空気を揺らしたまま
夜の帳が閉じるまで

過去も未来も霞んで
ただこの瞬間だけが鮮やかに
焼き付いて離れないように
呼吸も忘れるほどに

時が過ぎれば
きっとこの感情も
思い出の中に沈んでいく
波のように寄せては返す記憶の奥へ

それでも今は
名もなき感情を抱きしめ
この瞬間の中で息をする
たとえ次の瞬間が来たとしても

君の瞳に映る光が
今を映しているうちは
この世界のすべてが美しく
心の中に永遠を宿している

だからもう少しだけ
時計の針を忘れさせてほしい
風の音が遠ざかる前に
影が闇に溶ける前に

今、この時を抱きしめる
どこまでも広がる夜の静寂の中で

2/17/2025, 3:25:26 AM