静かな部屋にぽとぽとと紅茶にお湯を注ぐ音が響く。つい昨日まであったはずの温もりは消えて、その残骸のように洗い物がシンクに残っている。あいつは朝から九州に向けて発っていってしまった。教員採用試験も近いって言うのに。いつだってあいつはそうだった。自分のことは後回しで、大事な家業とやらに勤しんでしまう。腹がたつ。そんなあいつにも、手助けしてやれない自分にも。苛立ちを鎮めるように、まだ熱い紅茶を喉に流し込む。香りが、そして熱が口いっぱいに広がっていく。いつのまにか部屋は紅茶のかすかな香りに包まれていて、草太の影を綺麗に消し去っていく。
10/28/2022, 5:31:42 AM