柳絮

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静寂に包まれた部屋


チク、タク、と時計の音が響く。沈黙の中に、パラ、カサ、と時折ページがめくられ紙が擦れる音が混ざる。
パタン、と本を閉じたのは、黒髪の少年だった。感慨深そうに表紙を撫でると、顔を上げて部屋の主を探した。
銀髪を緩くまとめた部屋の主は、安楽椅子に身を預けて文字に目を走らせていた。それがまだ中盤であると見て取った少年は、新たな一冊に手を伸ばした。
それが交互に繰り返されていることを知るのは、時計だけだった。





別れ際に


「バイバイ」

変だな、と思った。いつもなら、またね、と言うのに。でも、その日はいつも以上に楽しくて、はしゃいで、笑ったから、その幸せな余韻が残っていて、深くは考えなかった。同じように「うん、バイバイ」と返して、手を振り合って別れた。別れてしまった。
それが最後になるなんて。
そうとわかっていれば。あの違和感を見逃さなければ。問い詰めていれば。
違う。例えそうしても、きっと彼女は本当のことなど言わなかった。





通り雨


「うひ〜冷たい!」
濡れた髪をタオルで拭う。ついで服と鞄の水も払えば、小さなハンドタオルはぐっしょりと重くなった。
飛び込んだ軒先は、古い民家のようだった。手持ち無沙汰に見回すと、レースのカーテンがかかった窓からぬいぐるみがのぞいている。首から看板を下げていた。
「アンティークショップ……ぱらぷるー?」
「はい。よかったら中へどうぞ」
「へ!?」
クマが喋った!? と思ったら、玄関から男の人が顔を出していた。




秋🍁


カサカサ、と足の下で乾いた葉が砕けた。
一歩、もう一歩と踏むたびに心地よい感触と音がして、段々足取りが軽くなる。さらに奥へ踏み入ると、たくさんの落ち葉を着込んだ山は空をも黄色く染め上げて、やがてくる冬に備えて最後の彩りを散らしていた。
息を深く吸い込むと、煙の匂いがした。目的を思い出して急ぎ足を進める。大木を越えると山が開けて、足元は土に変わった。パチパチと火が燃えている。
「来た来た。焼き芋できたよ」

10/2/2023, 10:41:39 AM