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彼女は絶望的な表情で立ち尽くした。朗らかな草原に点々と紅い染みを残し、いつも微笑みのまま凝り固まったような表情を一切崩すことのない彼女の顔は、今や沸き立つ憤りと怨みによって見る影もないほどに歪められ、穏やかな川のような心はすでに氾濫し荒れ狂う波を生んでいた。
それは一瞬の出来事だった。予測することは不可能だっただろう。誰が悪かったというわけではなく、ちょっとした不注意が生んだ事態だった。
久しぶりのピクニックに、少し気が抜けていたのだ。
もしかしたらこうなるかもしれないと、一度は頭をよぎっていた。しかし、今、この楽しい時間を満喫したい、優先したいと思ってしまった。
直後はあっけにとられ、だんだんと手遅れであるということを理解してくると、激しい後悔と悲しみが襲いかかり、次に憤慨の過程を通り過ぎ、今となってはもはやなんの気力もなく、絶望に打ちひしがれる他、もう他に彼女にできることはなかった。
一筋の涙が彼女の頬を伝った。
ポタポタと紅い雫が、彼女の持つバスケットから溢れ落ちる。
トクトクと音を立てて、滔々と流れ出す葡萄酒に、バスケットの中は紅く沈み、染めあげられていた。サンドイッチが、その海を悠々と泳いでいた。

『彼女はとても憤慨していた。なぜなら…』

5/15/2022, 4:17:43 AM