【突然の君の訪問。】
突然、君がやってきた。もちろん、部屋の掃除はしていない。
「相変わらず、汚いね~」
レオナが言う。彼女がこの部屋に来るのは、かなり久しぶりだ。
「なぁに、幽霊でも見たような顔してる」
自信に満ち満ちたような表情はあの頃と変わらない。
「だって。そりゃ、驚くでしょ。ずっと部屋から出てないって聞いてたから。」
ユウキは声を絞り出すようにして、答えた。
「焦るとメガネ直す癖も変わってないね。」
ユウキの言葉は無視して、レオナが指さしてくる。ユウキは少しムッとして、
「なに?急に来て。」
せっかく引きこもってた幼馴染が来てくれたんだから、ほんとは嬉しい気持ちでいっぱいなのに、レオナの横柄な態度につい応戦してしまう。
「別に。元気かな、と思っただけ。」
レオナは悠然とユウキの机のへりに腰かけ、ユウキのヘッドホンを耳に着けた。
「最近は何やってんの?」
優雅な仕草でパソコンを覗き込む。
「ゲームだよ。」
ユウキはドキドキしながら、最近やっているゲームの画面を開いた。
実を言うと、内緒でレオナのSNSのアカウントをフォローしている。というか、フォローするだけに留まらず、素性を隠して仲良くなり、一緒に楽曲制作をしているのだ。そして、それが今バレるのは良くない。
ユウキはSNSをログアウトできているかハラハラしながら、少しだけそのゲームをプレイして見せた。
「やば。めっちゃ強いじゃん。」
ヘッドホンはレオナがつけてるので無音で操作せざるを得ない。
ドサッ。
画面上の敵が倒れた。
「ふーん。」
レオナはヘッドホンを外して、今度はベッドでくつろぎ始めた。艶のある黒髪ストレートのボブに、いつの間に入れたのかブルーのメッシュが入っている。小さい頃はモデルをやっていただけあって、その長い脚を組むだけで妖艶な雰囲気さえ漂う。
(中学生とは思えないな・・・)
昔から、レオナは女王様だった。いつどこにいても、あっという間にその場を支配してしまうオーラがある。
「ねぇ、学校、行かないの?」
「うーん。どうだろうね。」
「レオナなら今から勉強しても間に合うだろ?」
彼女はユウキとは違うお嬢様中学校に通っている。高校はエスカレーターで上がれるはずだ。
「まぁね・・・。」
煮え切らない返事をしながら、ベッドに投げ出してあった音楽系の雑誌をめくっている。主にピアノ曲の雑誌だ。
「まだピアノやってるんだね。」
「うん・・・。」
何か突っ込んだことを聞かれるんじゃないかと、ついそっけない返しになってしまう。
「ん。帰るかな!また遊びに来るね。」
来た時同様、突然レオナは立ち上がった。
彼女がさっさと出て行ってしまったので、なんとなく立ち上がるタイミングを逃してしまった。階下の玄関の方から、母がレオナを見送っている声が聞こえてくる。
不思議な感じがした。
さっきまで、この部屋にレオナがいた。彼女の妖しげな微笑を思い出す。ユウキはベッドの方に目をやった。さっきまで、そこにレオナが座っていた。
なんとなく、見続けてはいけないような気がして、ユウキは慌ててヘッドホンをつけ、ゲームで無心で敵を倒し続けた。
8/28/2023, 2:28:29 PM