池に石が入る。水紋が広がっていく。
「お前は自然現象を理不尽だと感じたことはあるか」
そう池に石を投げ入れた男、佐野勝が言った。
「ありません」
「そうだろ、だからお前の両親のことは気に病むな。通り魔もまあ、自然現象みたいなもんだ。」
そう言った。彼はいつもこうだ。一方通行で下手な励まし。悲しくなるだけなのに。
誰かが通り魔に刺された。
最早、日常の一部と化したその現象が自身にも起こるのは当然のことだった。
ポーン、とまた石が池に入る。
今度はたまたま水を切って一度跳ねてから沈んだ。
「けど、まぁそうは言ってもやりきれないんだろうけどな。」
そういう彼の目は寂しそうで少し潤んでいた。
「整理できてないのはあなたの方だ。」
ポーンと私が石を投げ入れる。
ポチャンと音がした。
そして次にバシャっと音がした。
それは包丁を投げ入れる音だった。
私の両親と私を刺した包丁。
「むしゃくしゃしてたんだ。誰でもいいから刺したかったんだ。」
そう言うと彼は髪を掻き出した。血が滲んでも止めようとしなかった。
私は止めなかった。私の役割ではないから。
「何で、何であんたらなんだよ。どんな悪戯だよ。しかもあの顔。俺のこと、少しも恨んでなんかいなかった!」
そして頭を掻くのをやめると血走った目でこちらを見た。
「いつだ、いつお前はいなくなってくれる!いつ、許してくれるんだ。」
知るわけがない。
ポーンと石がまた投げられる。
「あなたがあなたを許すまでですね。」
私がそう言うと彼はまた頭を掻き出した。
そんな彼を私はずっと見ていた。
何日も、ずっと。
彼がまた睨んでる。
「自然現象は不条理じゃないんでしょ?」
お題不条理
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3/18/2026, 1:25:35 PM