M氏:創作:短編小説

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『白姫様、お身体が冷えますゆえ…』

己の視界に刺激を与えてくれる景色は戸に飲まれた
紅葉も枯れ落ちる季節
シミ一つない白一色の薄着物は風の冷たさを柔肌に教える

「婆や、少しで良いの。もう少し外を見させてちょうだい」
『白姫様、お身体を悪くしては神も眉を顰めます』

病を妖の力と呼ぶには信憑性も何も無い
だとしてもこの家は邪を拒む
七々扇家代々の伝統とも言うべきか

~神望むわ邪を拒む純~

簡単に言えば神様に純粋無垢且つ健康な処女を捧げろと言うもの
病にかからぬよう清潔な空間で過ごし
健康的な食事と健全な生活を行い
15を境に神の迎えが来ると言う
迎えがどういう意味かなど自分には分からない
だが自由が一つも無いと言えばそうなのだ
七々扇家の長女は皆同じ運命を辿る

「神も景色を慈しむ心くらいは許すでしょうに」
『妖が付けば神も見放します』
「妖なんて居ないじゃない」
『妖は姿も見せぬうちに生命を奪います』
「まるで子供騙しの御伽噺ね」
『白姫様』

白一色の柔らかな布団に下半身を包まれる
逃げ出さぬようにと足に付けられた枷が軽く引っかかるが老婆はお構い無しだ

『神も仏も妖も邪も総じて在ります。大主様の耳に入らぬよう言葉にはお気を付けください。』

七々扇家で産まれた長女は戸籍に名を残す事も許されない
それなのに産みの親を、家の主を敬えと強要する
家を繁栄させる神とやらへの供物として自分を扱う癖に
滑稽な話では無いのか

「婆やは私の味方でしょ?」
『私は七々扇家の使いですので…』
「そう、公私混同はしてくれないの」

老婆はスクッと立ち上がりそそくさと寝屋を後にする
産まれてこの方この部屋から出た事が1度も無い
外の世界はどんなものなのだろうかと
どれほど思考を凝らした事だろうか
其れに何度蓋をしたのだろうか

ズリズリと布団から這い出て畳を這う
木と金具で造られた古風な足枷は酷く重くて
畳を傷付けぬよう這うのにも一苦労だ

「あら…今日は満月なのね」

僅かに戸を開けて庭を覗き込めば空は暗くなっていた
美しい月が丁寧に整えられた庭木を照らし
寂しさを紛らわせるように星は煌めく
暗い部屋に入る月明かりのように
時と共に動く月のように
己も自由になりたいと望む

「星も地に落ちるのね」

流れる光を目で追い微笑んだ
“きっと自由になれるわ”
そう心の中で呟いてから布団に戻った


題名:一筋の光
作者:M氏
出演:カゴ


【あとがき】
軟禁洗脳って現代でもよく使われてますよね
恐ろしいと私は思います
出演してくれた彼女はちゃんと自由になれますよ
望んだものかは分かりませんが

11/5/2023, 10:40:41 AM