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少女であった、あの頃は。

─── なりたい者に成れると、信じていて。
──── やりたいことをやれると、信じていて。
─ 魔法だって、
── 御伽噺みたいなことだって、
どこかであるんだって!

…信じていた。

夢を見て、夢を見て。現実から目を背けて、

…いつか、素敵な大人になるんだって、
…いつか、誰かがわたしを楽にしてくれるって。
…いつか、夢は叶うんだって。
…きっと何もかも、上手くいくって、

……いつか、いつか!

信じていた。

無垢で、純粋で。
希望に溢れた、あの頃は。
…もう、戻ってこない。

いつだったかな、
シャボン玉みたいに、パしゃんと潰えた。
本当に呆気なく、敢え無く。
虹色の煌めきを、一瞬残して。

それこそ、御伽噺の一幕の夢のように。

幻は、フッと立ち消えて、
ネバーランドからは、追放されて。
サンタさんはどっか行っちゃって。

残ったものは、地面に散った、汚い染みひとつ。

無垢で、純粋で、………愚かだったなぁ。ホント。

自分はしょせんただの人間だって思い知って、
上手くいかないことが増えて、

「現実を見なさい」って、
「将来やりたいことは?就きたい仕事は?」
「やりたいことは?」

「あなたは、何をしたいの?」

分からないことばかり。
進路、将来のプラン、資格、受験、人間関係、エトセトラ。

夢を見るヒマなんて、ありゃしない。


僕はもう、少女ではないけれど。

いまだに“わたし”と“僕”の間を揺れ動いている。


夢を見る。現実を見る。
僕は、“僕”で、現実を迷いながら、生きてる。

夢見る少女よ、さようなら。

また夢の中で、会いましょう。

瞼を閉じれば、軽やかに笑う、貴方の声が聴こえる。


#夢見る少女のように

6/7/2025, 11:38:25 PM