ヨリ

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●オニノスミカ●

この街がまだ“村”だった遠い昔の時、

村を襲う様々な厄災から
神様に守ってもらおうと、

私はイケニエに選ばれた。

経緯は色々あったけど、
簡単に言うと、

フラッと立ち寄った旅人が、
当時、村を治めていたおばばに
何かを吹き込んだらしい。

当時の村には神様だとか
宗教だとかの概念は無くて、

村人は信じたいもの好きに信じ、
願いは夜空に願う…そういう感じだった。

ただその行為に宗教や神様という
存在がなかっただけなのだ。

旅人の進言で、
村には一斉に神様と宗教という
概念が生まれ、

夜空はただの夜空になり、
そこに願う者も消えた。

子どもの私が何故イケニエニに
選ばれたのには覚えがある、

旅人がまだ村に来てすぐの時、
たまたま近くに居た私に
道案内をしてほしいと
言ってきたので、
道案内をしていたら

あいつは人目の無い所で
変な事をしようとしたのだ。

私は必死に抵抗して逃げだした。

旅人がやってきて、
道案内の一件から、しばらく経った頃、

この村に降りかかる
厄災から村を守るために
カミサマのイケニエとして
私達は埋められた。

旅人に変な事をされて、
黙って我慢してた子もイケニエの中にいた。

大人の女の人、子どもがイケニエニの主だった。


私だけならよかったのに…。
と、思った。
私は少し“変わった子”だったらしく
村人からも一線を引かれていた。

両親は愛してくれてはいたと思うが、
私のせいで辛そうだった。

それでも、私はこの村の自然、
特に海は大好きだった。

それを守るためなら
怖くても我慢した。

恐らく旅人に変な事をされた方が、
怖かったんだろうなと想像する。

この儀式に
これは、私の使命なんだと。
子どもながらに思い、事切れた。


…と、思ったが
私はまた目が覚めたのだ。

最初は何だか分からなかった。
他のイケニエにされた人もいない。

そして、
村人に話しかけど話しかけど、
誰も私の声が聞こえなかった。
姿が見えないようだった。

これでどうやって
村を守れるんだろう?

まだ子どもの私に
何が出来るんだろう。

他の人は先にどこかに
行ってしまったんだろうか?

これじゃ、イケニエニなった意味が
無いなと途方にくれた。

それから、
私はこの姿のまま
何もする事も無く、
年も取る事も無く、
数年、村を見守りながら過ごした。

唯一嬉しかった事は、
私の両親に新しい家族が出来た事だ。

私の弟、生きていれば、
私は、あの子のお姉ちゃん。

そして、時が経ち
あの旅人はいつの間にか
この村を乗っ取っていた。

自分を神の化身と名乗り、
いつの間にかこの村に
そいつの宗教が根付きつつあった。

それでも、
私はどうする事も出来なかった。

ほかのイケニエだった人は何を
しているんだろう?
苛立ちばかりが募る。

ある日のこと、
弟が私の秘密の場所だった付近で、
明らかに迷っていた。

しかし、本人には迷ってる自覚は無く、
楽しそうに探検していた。

私は見守る事しか出来ず、
ただ側にいるだけだった。

秘密の場所。

そこは、海の近くにある洞穴で、
洞窟までとは言わないが
中はそこそこ広い。

そこから見える海がキレイで、
一人になれる大切な場所だった。


そして、昔、
あの旅人に襲われそうになった場の近くで、

この姿になってもあまり近寄らなかった。

…私は嫌な予感がした。

もう、六、七になる年の頃か、
弟は軽快な足取りで、同じ場所を
ぐるぐるまわっていた。

そして、後ろには、
あの旅人がいた。

あいつ…女、子どもだけでなく…。

幾年も経って私は、
あいつの正体も厄災の原因も知っていた。

簡単に説明するならば
あいつこそが厄災の原因で正体だったのだ。

弟を救わなければ、
でも、どうしたら。

陽が傾き、一番星が見えた時、
私は空に願った。

弟を助けて。と。

その時…。

『お姉ちゃん、誰?』

立ち止まった弟がそう言った。

「え?私がみえるの?」

『?』

弟は私が何を言っているか
分からない様だったが、
どうやら、私が見えるらしい。

私はとっさに

「…鬼が来るよ」

と、いった。
鬼ならば、子どもは怖くて逃げ出すだろう。

どうか、鬼よりも恐ろしいあいつに
襲われる前に立ち去って。

『お、おに?』

弟は思いのほか怖がって、
足がうごかないようだった。

「この先に洞穴があるの。
鬼が去るまで隠れて!さぁ、走って!」

『う、うん』

弟は私の必死の言葉に走り出し、

後ろから付いてきていたあいつは
急に走り出した弟の姿をみて
舌打ちをしていた。

どうやら、あいつには
私の姿はみえなかったらしい。

何とか弟を助ける事が出来た。

しばらくして、
私の秘密の場所で
言いつけ通り隠れていた弟を
迎えに行き家まで送っていった。

そして…。

「あの場所には二度と行っては
行けないよ。鬼の住処だからね。
…約束」

『うん』

小指を交わし約束をした。


それから、
ぼーと家の前に立っている
弟の姿をみつけた両親は
その子を抱きしめ、泣いていた。

私の時も泣いてくれたかな。
そんな事を思った。


のちに、
私の秘密の場所付近は
鬼が出る恐ろしい場所と噂が立ち、
誰も近寄らなくなった。


そんな、誰かの昔話し。



fin,




#今回のお題は
【子どものままで】でした。



5/13/2023, 9:49:32 AM