君には翼がある。
偉い大人が口を揃えて、馬鹿の一つ覚えよろしく吹聴するのを馬鹿馬鹿しいと思っていた。
不特定多数の若者へ夢と希望を与え、士気を駆り立てるための方便として上手く言ったものだと。
そんな生意気な子供だった自分も、気付けば大人になってしまった。通ってきたはずの道を今まさに歩む学生なんかを見ると目が眩むようで、なるほど確かに翼も見えようと思った。
それ以上に厄介なのは、自分と同じかそれ以上に歳を重ねているはずの数多の背中に、それはそれは大きな翼を見ることだ。
彼らは思い思いの空を駆けるべくしてその翼を得たのだろう。自分はどうだ。この背中に羽はあるか。
恐ろしくて、見てみようとも思わない。
そうして俯いてばかりいるから気がつかないのだ、などという説教を聞いたこともある気がするが、正直どうでもよかった。
空を飛びたいでもない自分に翼は手に余る。十二分に恵まれたこの体で生きてさえいれば、それだけでいい。
時にそれは言い訳じみて聞こえるだろう。しかしこれが自分の精一杯であり、どうしようもない生命だ。
翼を持つ君よ、どうか気付くなかれ。
空を飛ぶには頼りなく、捨て置くには惜しいその翼に。
傷付こうとも背負い続けた大きな翼の重みに。
君には翼があるのだ。
/飛べない翼
11/11/2024, 1:17:54 PM